テーマ「夢」 サブレジメ
関 浩成@SU
哲学道場高円寺
2007.3.24(土)
はじめに
哲学的題材としての「夢」には、複数の考察方向がある。たとえば夢の文化性、民族性の考察、夢と現実と神秘性の関係、あるいは、「私の将来の夢」のように、メタファーとしての夢の使用法にも興味を引かれる。しかしながら今回は、サブレジメの性質上、鳥瞰的な視点を避け、「夢とは何か」という典型的な設問に絞った。
私の立場は、これまでの思考の流れをご承知の方からは推察されるかもしれない。要は、夢という体験の科学的分析と言葉の使用を分け、主として後者を中心に思考を組み立てて、選択肢の列挙に至らせるわけであるが、今回は、これが前提とする関係一元説(実体の存在を否定)にいたる前の、夢の科学的分析に関して発表をする。
やや言い訳めいた前置きとなったのは、フロイト派をオカルトとして一蹴しようという論調は、フロイト派の夢の解釈による社会的有用性までも否定しているわけではない。その存在意義は、選択肢の一つとして十分に認めている。もっともそれは、占いの便益と同質のものである。
その1 夢の科学史
・1900 『夢判断 初版』(フロイト)出版
・脳の活動は感覚神経に依存する(シェリントン1857-1952)=パブロフ
・自律的に活性化する脳の機構がある(ブラウン)
・1928 精神科医ベルガー、脳波計を発明し、眠っているときの脳波の特異性を報告
→現在ではPGO波と呼ばれ、特有の喚起刺激を有する。
・1953 アセリンスキーとクライトンマン、脳波と急速眼球運動の関係性を報告
→睡眠の種類について言及される。
・1949 モルッチ&マグーン、猫のレム睡眠の研究報告
「レム睡眠は哺乳類一般に見られ、体温調節機構に役立っている」
・1950~ジュヴェの一連の報告<猫の脳の切除実験>
「睡眠中の脳の活性化は自発的に起こる」
「レム睡眠によって筋肉の活動が積極的に抑制」
「レム睡眠を調節する中枢は脳幹に存在する」
・1990~ アメリカ議会が「脳の10年間」と宣言。意識を、起きてるとき、眠っている とき、夢を見ているときの三つに分け、意識状態の変化による脳の領域別活動パターン を視覚化することに成功
★このような研究、つまり、夢とは覚醒状態とは別の、脳の活性化パターンの一つである、 という見方がなされる一方で、勇名を馳せたのが、フロイト派の人々である。無意識論、 自我論、このようなタームで独自の精神分析を行うことが学術的の制度化され、社会的 に定着した。
その2 フロイト説「夢=抑圧された欲望説」の問題点
1)夢判断で用いられているのは、ほんの40ほどの実例。サンプル数が少なすぎる。
2)1にも関わらずくみ上げられた理論は、「夢は無意識のあらわれ」という先入観があ るためだが、それ自体には理由がない。
3)「無意識の願望(イド)が眠りで弱まったエゴの検閲を通過する際に変形される」は、 前提たる自我の構造自体が仮説でしかなく、仮説の仮説である。
4)自由連想法は、それを自覚している患者には、その情報が影響を与えてしまうし、ま た、偽りの記憶、記憶の捏造は社会問題にもなっている。
5)フロイト説は、支持者が多いが、学問的には、前世紀から制度的に残っているにすぎ ない淘汰対象である。
★現在のところ実証可能なところは、夢は、脳の活性化に依存している可能性が非常に高 い、というところまでで、それを超えて実証される段階ではない。
抑圧された欲望と観ようとする作業を否定する必要はないが、それは「精神的に優れ ないのは、悪い背後霊が憑いているからだ」という理説による治療とさして変わるとこ ろはない。
その3 情動の「末梢起源説(ジェームズ)」対「中枢説(キャノン&バード)」
フルクス「ノンレム睡眠中にも夢を見ている可能性はある。したがって、睡眠中の精神活 動は脳の生理学とは何に関係もない」(=脳と心は別物)
参考文献
・夢の科学 アラン・ホブソン著 講談社ブルーバックス2003
・フロイト 著作と思想 有斐閣新書1978